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56 帰ってきた写真ギャラリーめぐりーお気に入りの写真家の話 [帰ってきた写真ギャラリーめぐり]

 芸術の秋ということで、作品としての写真や写真家の話をしてみたい。たぶん、私が一番最初に美しいと鑑賞や審美性の観点で感銘を受けたのは、緑川洋一と植田正治である。おそらくモーターマガジン社か学研の出す写真カメラ雑誌で見たのだと思う。きらきらと七色に光る黄金の海の風景。もう一方はモノクロの単一トーンの砂の中で浮かび上がる幸せな家族の表情や、それとはミスマッチな古風なお囃子用のお面である。
 写真を写すのが楽しくなり始めたころに出会ったのが、新聞社のグラフ誌に載っていたと思う前田真三だ。緑川のそれが光の芸術なら前田のものは色の芸術だった。北海道は美瑛の美しい花畑に、色のラインが幾何学的に並ぶ、何とも言えない美しさだった。プロの写真家も世の中には結構多くいるが、さすが著名でいくつもの賞をとっているだけある。これだけの写真家はなかなかいない。
 なぜいままで前田や緑川のお話をしていないかというと、あまりに細部の話に入り込んで独りよがりな内容になることが否めないからである(それぐらい好きということだ)。しかしこのブログもずいぶんと常連さんが増えてくださったので、知識の共有の準備は整ったと考えて、今回は私の好きな、単純に見ていて楽しくなる作品について、話を進めてみた。
 例えば前田の『麦秋鮮烈』という作品を見て、頷かない人はほとんどいない。既述のように前田はなだらかな丘陵地帯の畑に植えられた作物の持つ色を、幾何学的に配置した構図で作品を作っている。写真展では展示作品の前に必ず人だかりができるのは必至だ。ローキーな画面に暖色系の色のはずの紅色が、涼しげなトーンで、しかもすっと定規で計ったように大地を染め上げている。赤系の色をくすませながらも、ビビッドな主張をさせている美しい作品と言える。自然風景であるはずの畑が、まるで無機質に見えるところにこの作品の味がある。
 一方の緑川、『下津井沖の航灯』や『灯台と船』を私は最初合成写真と思っていた。カラーセロファンをよじらせて乱反射で彩色写真のようにして、あとで筆入れして作ると思っていた。ところが、これらはカメラの機能を多分に駆使して、フィルターを上手に活用して撮った現実の風景だった。こんなものが七十年代や八十年代にすでにフィルム写真で作ることができるというのも、今思っても驚かされる。ここで言うフィルターはデジカメに内蔵されているデジタルフィルターではなく、レンズにかぶせて特性を得る現実のフィルターである。
 そして『灯台と船』では、光と影のコントラストをいかすように、七色の海を背に船が影絵のように、シルエットだけで表現されている。これは芸術と言える絶品である。いまならグラフィックデザインやデジタル加工でうまくやれば、作ってしまう人もいそうだが、自然情景とカメラの機能だけでこれを撮りあげた技術に脱帽する。
 七十年代や八十年代は、映画も、写真も、テレビもカラーが主流になりだした時代だった。とりわけ七十年代後半は、天然色という言い方が庶民や地方にも定着した時代でもある。映画に少し遅れて、テレビもこの頃から徐々にカラーが浸透していった。十にも満たない私でも何となく覚えている社会風潮だ。それを先取りするかのように、おそらく緑川作品は世の中に夢を見せてくれたのではないだろうか。
『下津井沖の航灯』では直線に並んだ船の光跡が美しく仕上がっている。幾重にも並ぶ横線の光は、よくよく近づいてみると小さくジグザグを描いている。波に揺れながら船が進んでいる証拠である。長時間露光したおかげで海と陸の境もシルエットでわかるようになっている。風景写真としての美しさも持ち合わせた両面からの佳品である。
 今回取り上げた前田真三、緑川洋一は絵画の印象派のような美しさを持つ作品を多く産出した(と私は個人的に思っている)。例えば海のきらめきはモネやスーラの点描に見えるし、紅色の大地はゴーギャンやゴッホ、セザンヌのべた塗りに見えると勝手に思っている。後付けの理屈かもしれないが、でも私の審美眼(審美眼はたいしたものではないが、作品は素晴らしいものだ)にも訴えてきたのだと思う。これらの写真家の他に、いままで小出しながらご紹介している植田正治や星野道夫も私の心に刻まれた作品をつくった写真家たちである。もしどこかで見る機会があったら、写真展に足を運んでほしい。自然風景を好きな方ならきっとこれらの写真家の作品はお気に召すものになるだろう(ただ植田だけは、砂丘という舞台は自然だが、分類としては演出写真になる)。
 これらのほかに現役の先生としては、竹内敏信さん、今森光彦さん、米美知子さん、石川賢治さんなども、お名前を発見すると時間さえ合えば、写真展に行きたくなる写真家の先生方だ。みどりと風景、海や湖と風景を大切になさる方々の作品を拝見することで、心にゆとりと安らぎを感じることができるような気がする。
 今回は私のお気に入りの写真家を作品でご紹介した。画像は前田真三の『麦秋鮮烈』を表紙に使っている写真集と緑川洋一の『灯台と船』を表紙に使っている写真集である。現在入手可能かはわからないが、フィルム時代の名作を一度ご覧いただけると感動すること間違いなしである。
 今回は私の趣味にお付き合いくださり感謝である。好きな写真家はひとそれぞれだが、皆さんにとっての芸術的一枚が見つかると嬉しく思う。久しぶりにギャラリー訪問の手掛かりになる本来のこのブログの使命(?)的な記事をあげることもできたので、ちょうどよかった。こういった記事を書いていると、ギャラリー巡りや中古カメラ店巡りをしたくなる性分である。困ったものだ。

おまけ
リメイクされたクリスティのオリエント急行がこの冬公開される。ポアロの「灰色の脳細胞」が大活躍かな。悪天候で行く手を阻まれた列車に乗り合わせて、「偶然」を装った乗客たち。うーん、何度見ても見たくなるんだよなあ。トリックも、プロットも、時代背景も素晴らしいクリスティ。予告を見る限り当時のイメージをちゃんとそのままに復刻なので、楽しみである。

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