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67 ちょっとだけliberal artsっぽいはなし 2 [リベラルアーツっぽい話]

 四月、新年度、一回目は格調高く参ろう(私レベル、低レベルでの格調の高さだ・笑)。
 その昔十七世紀や十八世紀の頃、ヨーロッパの富裕層の人たちは成人と見なされるために、ある一定の年齢になるとローマなどの芸術に触れる旅行に出されたという。とりわけ男の子は、社交界にデビューするためにこの儀式がとても重要だった。
 訪問地は、おおよそイタリア、ローマやフィレンツェなどの美術館がある町が多かったようである。これらの町は、現代の私たちからすれば、町全体が美術館のようなものなのだが……。
 そんな文化の中心地だったイタリアへと行かされる貴族諸侯の利発な子息、子女たち(特に子息)は、それなりに立派な馬車を用意されることもあり、一路ローマへ向かったという。この目的はなにも芸術鑑賞が最重要というわけではなく、そこで得た知識を武器にして社交界で名声や信用を得るための話題作りと述べる歴史書もある。中には旅の途中にスリやチンピラに扮した父親の部下が、その子女にやっつけられて、彼らが自信を持つための演出ハプニングを行ったなんて記録も残っている。過保護なのか、サプライズなのか、座興なのかよくわからない行為である。
 ダヴィンチやミケランジェロ、ボッティチェリなどの様々な芸術作品を学ぶことで、社交界にデビューした際に話題について行けるように(見くびられないように)、教養を高めておくのが名目上の目的だったという。とりわけ遠方にあったイギリスからの旅行は大変なものだったと伝えられている。それは大がかりな旅支度になったろう。
 馬車に限って当時を推測してみよう。ホームズのテレビドラマの台詞から察すると、馬車の御者席が区切られて、四輪、二頭や四頭立ての馬車ならとても高貴な人物と推測していたので、お金持ちほど頑丈な馬車で旅したのかも知れない(グラナダテレビの『シャーロックホームズの冒険』「ボヘミアの醜態」で依頼客が閣下クラス以上と見抜いた時の理由である)。いまならロールスロイスなんかにあたるのだろうか?
 現在は一部の知識人だけが芸術を愛する時代ではないので、多くの人たちが名作や名画とよばれる作品を自由に堪能できる。おかげで庶民の私でも名画と呼ばれる数々の絵画を自分の目で見ることも出来た。「アイスクリーム」の歌と同様に、王子や王女でなくとも絵画を見て、アイスクリームを召し上がるのだ(笑)。
 時代に関係なく、文学的な画家というのをリベラルアーツの立場からご紹介しようと思って、今回はこんな始まりかたにした。いつになくまじめな内容で失礼する(ちょっと文学部出身っぽいでしょう? 笑)。
 イギリスのバロック時代の画家にウイリアム・ホガース(William Hogarth 1697-1764)という人物がいる。時代はバロックだが様式的にはバロックとは言いがたい(と個人的には思っている)。一般にはこの画家は風刺画家といわれているが、あまり類を見ないユニークな作品を残している。マスコミ的なドーミエ(1808-1879)などとは少し質が違い、文学っぽいのである。絵の雰囲気でいうとロココ様式のフラゴナールに似ていると私個人は勝手に思い込んでいる(正解の解答ではなく、あくまで個人的見解)。版画の方は、まあ銅版画のおきまりのパターンである。
 前述した時代のイギリスの良家の子女を想像してみよう。そんな高貴な家柄の息子の元に、時代の寵児のような商いをしていた商人の娘が嫁ぐという興味深い作品を残している。『当世風の結婚』という作品だ。
 彼の連作作品は紙芝居のように物語があるため、しばしば文学的であると紹介される。教訓オチしているところまで古典から中世の文学的だ。これのほかにも『放蕩一代記』や国立西洋美術館にも一部所蔵されている『残酷の四段』などもある。なぜこれを美術館紹介の別アカウントの自分のブログではなく、こちらに出したかというと、別アカウントの方は十九世紀の様式論のみを扱っているためだ(唯一の例外はボッティチェリ)。それとおちゃらけて話題に出す程度の知識しかホガースのことを知らないからだ。
 物語としては、没落気味の高貴な貴族の息子と成金商人の娘の政略結婚のなれの果てを描いているという何とも辛口な風刺画である。全六枚は紙芝居形式のように物語り仕立てなので、絵画に疎い人にも興味を持てるものだ。その中でちゃんと絵画の見所であるメタファーもばっちり仕込まれている。結末はお互いに浮気相手を作り、結婚生活は完全に破綻というモラルのない社会へのメッセージがあるとともに、それとは逆のアンチ禁欲主義のメッセージもあるという。最後の六枚目には貴族の新郎はいなくなり、弁護士は処刑、新婦は自殺と、まるでアガサ・クリスティの小説のような結末。ハッピーエンドが好きな私にはちょっと心が痛いエンディングである。気になる人は専門的なものを読んでみよう。
 十七世紀から十八世紀は、まだ十九世紀ほど社会が整っておらず、中世のしきたりが残っていたように感じる時代背景や時代相を読み取れる。科学的見地のテイストがまだ社会に浸透していないのだ。ちなみにホガースの作品は、絵画のものと版画のものがあるので、二度楽しめる。
 イギリスを代表する画家として、ほかのヨーロッパに絵画の分野で遅れをとっていたこの国が追いつくきっかけになった画家である。国民的画家とまでいわれることもある。また『放蕩一代記』の第二場面「新当主の会見式」では、なんとあの音楽家ヘンデルのハープシコード(チェンバロ)を弾く姿がお目にかかれる(『メサイヤ』、『クセルクセス』などを手がけたバロック作曲家です。バッハの好敵手という方もいらっしゃる)。二人は知り合いだったようだ。結構、絵画ファンの間では有名な作品なのだが、一般にはまだまだ浸透していない作品なので、もし興味がある方は図書館などで見ていただきたい。
 今回はちょっと芸術風の内容で気取ってみた。私程度のご紹介する底の知れたリベラルアーツではあるけれど。そう所詮は書き手が私なので、たいしたことない(笑)。


ウイリアム・ホガース 『当世風の結婚』
http://www.salvastyle.com/menu_rococo/hogarth_marriagea.html

参考資料
夢プロジェクト編『名画謎解きミステリー』河出書房新社 2005年
国立西洋美術館サイト http://collection.nmwa.go.jp/G.1994-0012.html