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84 歴史とお酒と芸術と2(少し真面目なお話5) [少し真面目なお話]

 以前、同題名にてパブのお話をしたのが記憶におありだろうか? 今回は続編、それよりも遙か昔からのイギリス周辺のウイスキーのお話に参ろう。
 この起源には諸説あるのだが、今回はそのうちの一つを取り上げて、歴史に誘いたいと思う。英国史の一〇六六年、「ノルマン・コンクェスト」と呼ばれるノルマン王朝成立の後、一一七二年にアイルランドに醸造を示唆する文献が残る。日本では鎌倉幕府成立の直前、平安末期といったところである。また一二七六年の徴税帳簿が最古という説、一一七〇年という説もあるので、いずれにせよ十三世紀までその存在はさかのぼることが出来る。ただしの年号については、醸造を意味しているだけで造られた酒の種類の特定までは至っていない。「おそらく」ウイスキーであろうという枕詞の付くレベルである。
 語源の部分の由来と歴史はしっかり判明していて、ラテン語のaqua vitae アクアビーテのゲール語(ケルト人の一派でアイルランドとスコットランドに先住した民族の言葉)読み uisce beatha ウシュケ・ベアーハから来ているという。この時点で、通の人は起源や由来はスコットランドよりもアイルランドに一歩程度軍配を上げている(菊谷・立木著 99頁)。
 ブランデーもフランス語のeau-de-vie オードヴィ-と、これらと同じ「命の水」という意味のようなので、名詞発生の起源はそう遠くない酒同士と推測できる。これも、蒸留酒をすべてウイスキーと認識して良いか否かという疑問は拭えないレベルである(コザー著 神永倉訳・42-43頁)。
 ただしコザーによれば、アルコール飲料全体を定義する名詞が生まれたとき、リカーという名詞を使い始めたことを挙げている(コザー著 神永倉訳・40頁)。ワインやビールも含めていたので、文献の中でのリカーがどの飲料を意味しているのかが推測しずらいため、その特定が進めばウイスキーの歴史はもっと起源をさかのぼることが出来る可能性はある(現代のリカーは蒸留酒を意味することが多い。またウイスキーやブランデーを想定する人も多い)。
「命の水」の意味は、もともと修道院で造られるものだったことと、当時は嗜好品という意味合いが薄くアルコールは修道院の与えてくれる薬という意味が大きかった。これにより名称が成り立ったとみるのがおおよその見解である。
 話を戻し、その一一七二年に、アイルランドの文献に残るアイリッシュ・ウイスキー(以下アイリッシュと省略)の製造が確認されている。なぜいきなりスコッチではなくアイリッシュかというと、諸説のひとつ、アイリッシュの製法がスコットランドやハイランドに伝播してウイスキーが広まったということに則ったからだ。ただ、今日でもスコッチ、アイリッシュ、両者のウイスキーは味も風味も似ているところから、ほぼ産地の違い以外は、相違なく同じように味を楽しめると言われている。
 実はスコッチ・ウイスキー(以下スコッチと省略)の製造は、文献の上では一四九四年とされており(こちらも諸説あります)、初見がそれなので、十五世紀の終わり、ほぼ十六世紀なってから一般には出回ったと考えてもおかしくないのである。その文献とは、王室の財政帳簿類で、そこには修道士に麦を渡して造らせたという記録が残っているそうだ。内容は「8ボルのモルトを托鉢修道士ジョン・コーに。それによってアクアヴィテをつくらせる」とあるそうだ(コザー著 神永倉訳・48頁)。
 アイリッシュとスコッチは似た味との既述については、通の方に言わせると、スコッチは洋梨のようなフルーティーな香りがあり、アイリッシュは蜂蜜とバニラの香りが特徴と違いを位置づけている人も多い。だが、近年のバランタインのハードファイヤードのようなバニラを強調したものもある。一般のスコッチも水割り、グラスに加水することで、バニラの香りが広がるとされている。
 さらに1506年にはジェームズ4世国王のお墨付きで、エジンバラ理髪・外科医組合の独占製造が認められている。学識団体が国王より醸造権利を付与されたと言う事実は、十六世紀にはそこそこの重要産業の位置づけがなされているとも考えられる。
 歴史人物の中では、現代史の白州次郎という人をご存じの方も多いと思う。在野で戦後日本の再興に尽力した人物だ。無類の英国通であり、類をみない秀才でもあった。妻の白州正子は執筆の方で著名な方で、『隠れ里』なんかを以前読んだことがある。日本の民話や歴史伝説を愛した人だ。
 その白州次郎は、日本人がシングルモルトを知らなかった頃から、シングルモルトを愛飲していた人物である。
 ちなみに日本の一号ウイスキーは「サントリー白ラベル」だが、二号は湘南藤沢の東京醸造製(現メルシャン)なのだそうだ。
 一般的には、スコッチはブレンデッドとシングルモルトに大別される。シングルモルトは、私は年に数回しか買わない(買わない年もある)。シングルモルトは安くても四、五千円は見積もっておきたいお酒である。名だたるものなら一万円前後は覚悟しよう。お祝いなどの時に奮発して、自分へのご褒美として買うのである(庶民ですから・笑)。
 一方のブレンデッドは、いつも何かしら手元に置いておくお酒だ。現在はティーチャーズ・ハイランド・クリームが置いてある。バランタイン・ファインネストと並ぶ、千円以下で手に入る手ごろな価格のスコッチのブレンデッドである(九〇年代辺りまで、これでさえ舶来酒と称され高価な時代もあった)。私の場合は、おおよそどちらかが置いてある。シーバスリーガルの時もあるが、ハイランドクリームか、ファインネスト常備のことが多い。これをちょっとずつ週に一、二回やるのがいい。ブレンデッドはその名の通り調合酒で、モルト原酒三に対してグレーン原酒を七の比率で造るスコッチである。対するシングルモルトはモルト原酒の各種だけを配合して造るものである。ちなみにアメリカのウイスキーは「シングルモルト」の意味がヨーロッパとは異なるので、スコッチと混同してはいけない。
 これらは以前にも述べているが、製法はどうであれ、十七-十八世紀頃までは低級酒としてイギリスでは扱われてきた経緯がある。フランスやイタリアのワイン文化が伝わっていたからだ。スコッチは、強くて良く酔える安酒としてハイランド辺りで出回ることになる。ちなみに、このちょっと後にパブを経営していたウイリアム・ティーチャーが一八六三年(※販売元サントリーの資料からの年号、fig.2参照)、自分のパブのために造ったのが、前述のティーチャーズ・ハイランド・クリームである。「ハイランドの精華」と名高い銘酒も、パブが生み出した産物であった。
 個人的にハイランドクリームは、手軽に買えるスモーキーフレーバー(燻臭)の強い、香りで頂く口当たりのよいスコッチというイメージである。もう一方のバランタイン・ファインネストは、上品さとコクが売りの手軽なスコッチといった感じだ。しかもバランタインのスコッチは、ヴィクトリア女王の時代に、女王のお墨付きで王室御用達に指定された逸品でもある。
 不思議なイギリスの田舎のおじさんたちは、パブ談義中、フィッシュアンドチップスをつまみに、エール(常温発酵の英国ビール)とハイランドクリームをがぶ飲みするのが良いらしい。日本に例えるなら、串揚げをお供に日本酒と芋焼酎を同時にがぶ飲みすることになるだろうか? そんなチャンポンな飲み方、個人的にはゴメン被りたいものだ(笑)。

fig.1
highlandcreamp10.gif

fig.2
highlandcream.gif


ballantine.gif

主な参考文献
コザー著 神永倉訳 ウイスキーの歴史 原書房 2015年
菊谷著 立木写真 世界ウイスキー紀行 リブロポート 1997年

拙作『アイル・フォロー・ザ・サン』「49 歴史とお酒と芸術と(少し真面目なお話4)」
https://kometotaiyou.blog.so-net.ne.jp/2017-07-18

『稲富博士のスコッチノート』
https://www.ballantines.ne.jp/scotchnote/19/index.html

『ウイスキーあれこれ辞典』
https://www.suntory.co.jp/whisky/dictionary/

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